麻取の仕事

麻薬取締官のおとり捜査を解説

麻薬取締官のおとり捜査って、どんなことしてるの?

この記事ではこんな疑問にお答えします。

と言いたいところですが、おとり捜査については、マトリの仕事の中でも特にベールに包まれた捜査で、詳しくは書けません。

なぜなら、おとり捜査の詳細を明らかにしてしまうと、おとり捜査に従事している現役の麻薬取締官を危険にさらしてしまうかもしれないからです。

ごめんなさい。

ですが、マトリを目指している方にとっては知りたい部分でもあると思うので、説明できる範囲で説明しますね。

麻薬取締官のおとり捜査ってどんなことするの?

おとり捜査とは、

捜査官が身分を隠して、相手に犯罪を実行するように働きかけ、相手がこれに応じて犯罪を行ったところを逮捕する捜査

です。

簡単に言えば、「薬物買うよ」と売人に持ちかけ、持って来たところを逮捕するといった捜査です。

おとり捜査での重要なポイントは、「相手に捜査官だとバレない」こと。

当たり前ですが、捜査官とバレてしまっては、おとり捜査を行うことができません。

それどころか、捜査官の身が危険にさらされてしまいます。

警察官もおとり捜査はできる?

おとり捜査は麻薬取締官だけしかできないと言うイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。

警察官もできます。

ただし、麻薬取締官と警察官の行うおとり捜査には、決定的な違いがあります。

それは、「実際に薬物を譲り受けられるかどうか」ということ。

麻薬取締官は薬物を譲り受けることができます。

麻薬及び向精神薬取締法の58条には、

麻薬取締官及び麻薬取締員は、麻薬に関する犯罪の捜査にあたり、厚生労働大臣の許可を受けて、この法律の規定にかかわらず、何人からも麻薬を譲り受けることができる

とあります。

麻薬取締官が、麻薬を売人から譲り受けることができるのは、この法律があるからです。

警察官にはこのような法律がないので、薬物を譲り受けることはできないんです。

 

つまり、警察官がおとり捜査を行う場合、売人と薬物を買う約束をして、売人が薬物を持ってきたところ(受け取る前に)を逮捕するしかないんです。

「マトリは薬物を受け取れるけど、警察は受け取れない」この点が違いです。

おとり捜査が違法になることもある

おとり捜査は、その捜査方法によって違法になってしまうことがあります。

どんな時に違法になるのかを説明します。

犯人誘発型のおとり捜査は違法

どんな状況でもおとり捜査が許されるかと言うと、そうではありません。

全く犯罪を実行する意思のなかった相手に、犯罪を働きかけ、実行させた時は違法になります。

 

例えば、売人でも何でもないAさんに、「俺に麻薬を売ってくれ。どんなに高くても買うから」と話しを持ちかけるとします。

Aさんは、麻薬を売るつもりはありませんでしたが、「高くても買うから」という言葉を聞いて、それならどこからか麻薬を調達して売ろう」と決心しました。

そして、Aが、麻薬を持って来たところを逮捕。

 

この場合のおとり捜査は「違法」です。

なぜなら、全く麻薬を売るつもりがなかったAさんに、麻薬を売る意思を起こさせてしまっているからです。

これが許されたら、「何でもあり」になってしまうので、違法となっています。

 

「犯罪の意思のない相手に犯罪の意思を起こさせた場合」を法律的には「犯意誘発型のおとり捜査」と言います。

機会提供型のおとり捜査は適法

では、違法にならないおとり捜査とは、どんな捜査なのかを説明します。

それは、「薬物の売人から薬物を買う場合」です。

 

薬物の売人は、沢山の客に薬物を密売して金儲けをするのが目的です。

だから、すでに、「薬物を売りたい」と考えています。

この時点で、すでに「犯意」はあります。

その犯意がある密売人に対して、薬物の購入を持ちかければ、犯意を誘発していません。

密売人からしてみれば、「薬物を売る機会」を得たんです。

 

この場合は、違法にはなりません。

薬物を売りたい密売人から、おとり捜査で薬物を買う場合は、「機会提供型のおとり捜査」と呼ばれます。

そして、この「機会提供型」のおとり捜査であれば、違法ではない(適法)となります。

まとめると、

「犯意誘発=違法」

「機会提供型=適法」

となります。

実際のおとり捜査はどんなことをしている?

実際に麻薬取締官がどんなおとり捜査をしているか?

これは、現におとり捜査中の麻薬取締官に危険がおよぶかもしれませんので、詳しくは説明できません。

ただ、既に裁判になっている事件で、裁判例としても取り上げられている有名な事件がありますので、その事件について、どんな捜査をしたのかを説明します。

事件概要

  • 犯人は、「イラン人密売人」
  • 犯人は、麻薬取締官の捜査協力者(マトリに情報提供してる人)に対して、「大麻樹脂の買い手を探している」と伝える。
  • このことを知った麻薬取締官は、このイラン人密売人の割り出しや、薬物保管庫を見つけるための捜査を行ったが発見できなかった。

実際のおとり捜査

この事件に対して、麻薬取締部は犯人検挙のためにおとり捜査を行うことにしました。

まずは、捜査協力者の仲介の下、新大阪駅の近くのホテルの一室で犯人と会います。

設定は、「日本人密売人」です。

そこでの話しあいで、大麻樹脂の2キロを買うことが決まりました。

大麻樹脂は、後日、犯人が東京から大阪まで持ってくることになりました。

そして、後日、イラン人密売人が大麻樹脂2キロを、取引場所であるホテルの一室に運び込んだところを逮捕。

こんなおとり捜査でした。

 

上では簡単に説明していますが、「どんな設定にするか」「どこで取引するか」「どの段階で逮捕するか」など、議論に議論を重ねて、決められているはずです。

なぜなら、取引相手が麻薬取締官だとわかれば、捜査官の身に危険がおよぶからです。

麻薬取締官のおとり捜査(まとめ)

麻薬取締官は許可を得て、麻薬を実際に受け取ることができます。

この権限は、警察官にはありません。

このおとり捜査は、薬物密売人を逮捕するのに、とても優れた捜査方法です。

 

おとり捜査を成功させるためには、おとり捜査官の安全確保、適法に(機会提供型で)に捜査することが重要になってきます。

おとり捜査は麻薬取締官の捜査の中でも特に秘密の捜査ですが、マトリを目指すみなさんが少しでも捜査をイメージできれば幸いです。

 

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